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先ずは結論から

ケニアの若者の最大酸素摂取量(今後「vo2 max」とします)値を知れば、当面は東アフリカ勢が中長距離陸上競技を支配することは明白だと多くの研究者は語っています。低いBMI(肥満指数)と高い標高での生活がもたらす驚異的なvo2 max値が優れたランナー達を生んでいることが分かりました。

ケニアでの現地調査開始

長い間、ケニアの陸上選手は子供の時から高地での長距離通学など、日常的に「ハード・トレーニング」をこなしてきたから優秀な成績を収めてきたと信じられて来ました。そこで、数年前、その定説を確認するため、ケニア研究の第一人者であるグラスゴー大学のイアニス・ピッツイラディス(Yiannis Pitsiladis、University of Glasgow)とハーバード大学のダニエル・リバーマン(Daniel Lieberman 、Harvard University)を含む学者グループが現地調査を行いました。

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ケニア人学生の通学事情

優秀なランナー達の故郷として知られている高地のリフト・ヴァレー(Rift Valley)地域に住む14歳の男女の学生30人を対象に調査しました。対象者は陸上競技の訓練やコーチングを一切受けたことの無い若者ばかりでした。彼らは、毎日平均して約7.5キロの通学路を速足で通っています。先ず朝登校し、昼休みはランチのため下校して家で食事します。昼食が終わったら、再び登校し、放課後はまた下校します。結局、家と学校を毎日2往復していることになります。

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(Rift Valleyへの旅行案内https://www.tripadvisor.jp/Attraction_Review-g480201-d625923-Reviews-Great_Rift_Valley-Turkana_District_Rift_Valley_Province.html

それぞれの学生達のvo2 max検査の結果を比較して見たら、予想に反して、通学する距離とvo2 max値との関連性はありませんでした。しかし、共通して目立ったのは彼らの低いBMIだったのです。

BMIとvo2 maxの検査結果

ここで簡単にBMIとvo2 maxの値を求める方程式を紹介します:

  • BMI=ボディマス指数=Body Mass Index=肥満指数=体重(kg) ÷ {身長(m) × 身長(m)}
  • vo2 max=最大酸素摂取量=酸素ml/(体重kg・分)

調査の結果は、平均で男子のBMI値は15.5で、vo2 max値は73.9ml×kg/minでした。女子の平均BMI値は17.0で、vo2 max値は61.5ml×kg/minでした。

上記の通り、数字を並べましたが、このBMIの平均数値は何を意味するかご理解して頂けますでしょうか。男子の平均数値を身長と体重で表しますと、背丈が170.4㎝の少年ならば、その体重は45㎏ということになります。もし、日本の中学校にこのような生徒がいたら、栄養失調の疑いで、親が学校に呼び出されるのではないかと想像します。女子の平均値を見てみますと、例えば身長を163㎝と想定するならば、彼女の体重は45㎏の体系となります。これは世界のスーパーモデル達以上の痩せ方ではないでしょうか。

現場での検査方法の工夫

設備が整っていれば、vo2 maxを測定する一般的な方法は、トレッドミルで測定する方法です。その際は、専用マスクを装着し、ランニング中の呼気を採取し、呼気ガス分析装置で呼気流量や呼気中の酸素濃度、二酸化炭素濃度を分析し、vo2 maxの値を導き出します。

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(日本の高校でのvo2 max測定の様子https://youtu.be/wEBkYTfYBZE

しかし、ケニアの山奥では体力測定研究所並みの設備は望めません。そこで、研究者は持ち込んだ分析装置を臨機応変に駆使し、30人の中学生に400m区間のルーチン走行をさせながらvo2 maxを測りました。

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調査結果からの推測

この現地調査の結果から推定できたケニア人の潜在的長距離走者としての優れた能力について、研究者達は一様に納得させられました。若者達の平均vo2 maxは、男子で73.9ml×kg/minで女子の平均は61.5ml×kg/minでした。

この結果を有酸素性能力表(Oxygen Power Table)の数値に照らし合わせて見ますと、フルマラソンを完走できる時間(Marathon Potential)に置き換えることができます。その結果、男子は2時間18分台で女子は2時間39分台でフルマラソンを完走する能力を持っていることになります。しかも、これは平均で、男子の最高のvo2 maxは81.6 ml×kg/minで、女子のベストは68.9 ml×kg/minでした。これは、Oxygen Power Tableをもとに推測しますと、男子では約2時間5分台で、女子の場合は2時間25分8秒のMarathon Potentialに値します。

 Oxygen Power Tableの例

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(その他のOxygen Power Tableの例http://hanafusa.info/tennis/Marathon/MarathonEndurance4.htm

 そこで現在の世界の公式マラソン世界記録を確認しますと、2014年にデニス・キメット(32、ケニア)がベルリンで記録した2時間2分57秒です。非公式では、リオ五輪の男子マラソン金メダリストで、世界歴代3位となる2時間3分5秒の記録を持つエリウド・キプチョゲ(32 、ケニア)が、非公認レースで出した2時間0分25秒という“世界最高記録”です。つまり、男子の世界記録と任意に選ばれた中学生男子の推定マラソン完走時間の差が2分台という驚きの結果なのです。

女子では、世界記録はポーラ・ラドクリフが2003年に出した2時間15分25秒がいまだにトップです。

現地調査から得た結論

何も特別な訓練をしていないケニアの中学生30人を対象にしたこの調査結果を見て、研究チームリーダーのA.ギブソン(Alexander Gibson、University of Glasgow)は「彼らは成長とともに体重が増えるが、それに伴って筋肉も発達するため、高い最大酸素摂取量は維持できます。つまり、当面、中長距離陸上競技は東アフリカ勢(特にケニア)に支配されるでしょう。」と結論付けています。

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東アフリカ勢のヒーロー

日本では、ローマ・オリンピック(1960年)、東京オリンピック(1964年)と立て続けに金メダリストとなったエチオピアのアベベ(Abebe Bikila、1932-1973)が、今でも鮮烈な印象をマラソン史に残しています。彼を東アフリカ勢の長距離走独占のきっかけを作った英雄と感じている人も多いと思います。

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その後、陸上競技の世界では、「中長距離の東アフリカ」と「短距離の西アフリカ」と言われるようになりました。各レースの入賞者の出身地を見ますと、雑な一般論とはいえないほど得意な距離がはっきりしているようです。西アフリカ出身者の子孫が多い北南米の走者はショートトラックで主に活躍し、ケニアやエチオピアのランナー達は常には長距離とマラソンのトップを走っています。

東京五輪大会

2020年の東京オリンピックでも、男女共にマラソンがハイライト競技になることでしょう。色々と東アフリカ勢の有利なポイントを見てきましたが、実力を上げている日本勢がこの不利な状況を吹き飛ばして、開催国の代表として最初にテープを切ってくれることを切に願います。是非、皆で応援して行きましょう。

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あとがき

この記事の主な情報元は、Public Library of Science(本部米と英)のPLoS One誌電子版で発表された調査*をRunner’s World誌上で紹介したAmby Burfootの記事です。Ambrose “Amby” Joel Burfootは1968年のボストン・マラソンの優勝者で、その後、長年Runner’s World誌の編集長を務めました。バーフット氏は現在も作家、編集者として活躍しています。

(*PLoS One調査書:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3689839/)

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