アメリカでは、足の速い少年達は次のいずれか3つの夢を見ると言われています。第1は「オリンピックの陸上競技でメダリストになること。」第2は「プロのアメフト選手になって、高額な契約金を手に入れること。」そして、第3は「1番と2番の両方の夢を実現させること!」
NFL選手の速さを実測出来るようになりました
プロのアメリカンフットボールの中心的組織、NFL(National Football League)に所属する各チームは常に俊足な若者を探しています。また、実質的にはプロの養成所となっている各大学のアメフト部は、全国の高校を回り、有望な学生をスカウトしています。その結果、アメリカの最も早いランナー達の多くはNFLで活躍しているというわけです。
今までは、俊足だと分かっていても、また各選手の陸上競技におけるベストタイムの記録が残っていても、実際の試合ではどれだけのスピードを出しているのかは、正確には分かりませんでした。そこでNFLは、2015年シーズンより、ゼブラテクノロジース(Zebra Technologies)社が開発した行動トラッカー(tracker追跡装置)を各選手の防具に埋め込み、その動きの速度、移動距離および他の選手との距離の間隔を記録するようになりました。
アメリカンフットボール選手の「お荷物」
実際俊足選手は、陸上競技で走るときの条件と全く違う環境で一体どれだけ走れるのか、皆が興味を持っていました。アメリカンフットボールの選手が身につけている装具を上から確認してみましょう。先ずフェイスガード(face guard)が付いているヘルメットをかぶり、しっかりマウスピースを噛みます。次にユニフォームのジャージの下にはショルダーパッド(shoulder pad)を装着し、パンツにはニーパッド(knee pad)、サイパッド(thigh pad)とヒップパッド(hip pad)がしっかり取り付けられています。最後は、3センチ以上(8inch)の「草」が生えている人工芝用のスパイクを履きます。これらの準備で選手達は合計5㎏の荷物を背負って走ることになります。これだけ身につけていて、一体どれだけ早く走れるのでしょうか。
最速10人の選手の瞬間速度
NFLの公式サイト、nfl.comの発表によりますと、ゼブラテクノロジース社のトラッカーを導入した年の最速トップテンは以下の選手達とタイムでした。
順 | km/h | m/s | mph | 選手名、 ポジション、 所属チーム |
1 | 36.37 | 10.10 | 22.60 | Robert Alford, Cornerback, Atlanta Falcons |
2 | 36.37 | 10.10 | 22.60 | John Brown, Receiver, Arizona Cardinals |
3 | 36.11 | 10.03 | 22.44 | Ted Ginn, Jr., Receiver, Carolina Panthers |
4 | 35.89 | 9.97 | 22.30 | Martavis Bryant, Receiver, Pittsburgh Steelers |
5 | 35.65 | 9.90 | 22.15 | Jeremy Maclin, Receiver, Kansas City Chiefs |
6 | 35.61 | 9.89 | 22.13 | Torrey Smith, Receiver, San Francisco 49ers |
7 | 35.61 | 9.89 | 22.13 | Sammy Watkins, Receiver, Buffalo Bills |
8 | 35.58 | 9.88 | 22.11 | Allen Robinson, Receiver, Jacksonville Jaguars |
9 | 35.49 | 9.86 | 22.05 | David Johnson, Running Back, Arizona Cardinals |
10 | 35.42 | 9.84 | 22.01 | Darrius Hayward-Bey, Receiver, Pittsburgh Steelers |
この数字はどれだけ凄いものでしょう?さてジャマイカのウサイン・ボルトが2009年に出した100mの世界記録の9.58秒を速度に換算しますと、平均で37.58km/h=10.44m/s=23.35mphで走っていたことになります。また、このときのボルトの瞬間的トップスピードは約45km/hではないかと言われています。さすがにNFLの俊足ランナー達はこの数字にはおよびませんでした。しかし比べた速度が、あのボルトの世界記録の結果だと考えれば、フル装備で試合中に出したスピードとしては驚きの速さと言えるでしょう。しかも1位から10位まで大差はありませんでした。
ウサイン・ボルトと0.3m/sの差?
試合中のNFL最速選手の瞬間タイムと、ボルトが100mの世界記録を確立したときの平均タイムとは僅か0.3秒程度の差しかなことには、やはり改めて感心します。このスピード感があるため、アメリカでは野球などの他のスポーツを抜いて、アメフトが最も熱狂的なファンをもつプロスポーツになったのだと納得させられます。今度からはもっとランニングに注目して、アメフトの試合観戦を楽しもうと思いました。